製造現場において、「注意していたはずなのにミスが起きた」「複数の確認工程があったのに、なぜか不具合が流出してしまった」という経験はないでしょうか。
こうした事故やミスが発生するメカニズムを説明する理論が「スイスチーズモデル」です。スイスチーズモデルは、複数の防護策(チーズの層)を重ねることで、個人のミスが重大な事故に発展するのを防ぐリスク管理モデルです。 製造現場の「穴(欠陥)」を構造的に把握できるため、根性論に頼らない実効性の高い安全対策を構築できます。
本記事では、製造業の現場目線に立ち、ヒヤリハット事例を交えながら、事故を防ぐための具体的な対策と「穴」の塞ぎ方を解説します。
1. スイスチーズモデルとは?事故が起きるメカニズム
スイスチーズモデルとは?
スイスチーズモデルとは、イギリスの心理学者ジェームズ・リーズン教授が提唱した「組織事故」のモデルです。組織事故の発生メカニズムを説明する理論です。安全対策をチーズの層に見立て、複数の層に開いた『穴』が偶然重なったときに事故が起きると考えます。
スイスチーズ(エメンタールチーズ)には多くの穴が開いています。一つひとつのチーズを「安全対策(防護壁)」に見立てたとき、通常はどこかの層で穴が塞がり、ミスは食い止められます。しかし、運悪く「複数の防護壁の穴が一直線に並んでしまったとき」、重大な事故やトラブルが突き抜けて発生してしまうという考え方です。
ハインリッヒの法則との違い
有名な「ハインリッヒの法則(1:29:300)」は、事故の「発生確率」を示したものです。対してスイスチーズモデルは、事故がなぜ起きるのかという「プロセス(構造)」に焦点を当てています。
| 項目 | ハインリッヒの法則 | スイスチーズモデル |
| 焦点 | 事故の「発生確率」 | 事故の「発生プロセス」 |
| 考え方 | 1件の大事故の裏に300件の異常あり | 複数の壁を突き抜けると事故になる |
| 対策 | 小さな異常を減らす | 壁を増やし、穴を塞ぐ |
2. 製造現場におけるスイスチーズの穴を見極める方法
4M(人・設備・材料・方法)の視点で現場を点検し、個人の不注意ではなく『仕組みの欠陥』を探します。ヒヤリハット報告を分析し、事故に至る前の『穴』を特定することが重要です。
製造現場における「スイスチーズの穴」とエラーの例
現場における「穴(欠陥)」には、大きく分けて2つの種類があります。
① 即発的エラー(アクティブ・エラー)
現場の作業者が直接引き起こすミスです。
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例: 部品の組み付け順序を間違える。機械のスイッチを押し間違える。
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現場の穴: 「焦り」「疲労」「不注意」など。
② 潜在的エラー(ラテント・エラー)
組織の中に潜んでいる、目に見えにくい欠陥です。
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例: 複雑すぎて読みづらいマニュアル。人員不足による恒常的な忙しさ。教育不足。
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現場の穴: 「管理体制の不備」「形骸化したルール」「無理な生産スケジュール」など。
【具体例:ヒヤリハットから事故へ】
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(穴1:潜在的)設備のメンテナンスが予算不足で先延ばしにされていた。
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(穴2:潜在的)当日の担当者が急欠し、不慣れな作業者が代行した。
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(穴3:即発的)不慣れなため、異常音に気づかず作業を続行した。
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(結果)機械が破損し、破片が飛散する重大事故が発生。
もし、メンテナンスが適切であれば、あるいはバックアップ体制が整っていれば、事故という「最後の一線」は越えずに済んだはずです。
3. 現場のスイスチーズの穴を見極める「4M」の切り口
穴を見つけるためには、場当たり的な反省ではなく、多角的な視点が必要です。製造業でおなじみの「4M」で分析すると漏れがなくなります。
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Man(人): スキル不足はないか? 連絡漏れ(コミュニケーションミス)は起きていないか?
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Machine(設備): センサーは正しく機能しているか? 誰が使っても安全な設計(フールプルーフ)か?
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Material(材料): 部品の入れ替わりはないか? 識別表示は明確か?
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Method(方法): 無理な手順になっていないか? マニュアルは最新か?
これらに加え、Environment(環境)やManagement(管理)を加えた視点で、「どこに穴が開いているか」を定期的にチェックしましょう。
4. チーズの穴を塞ぐ!製造業の具体的ミス対策(5つのステップ)
製造業のミス対策。具体的に何をすべき?
ポカヨケ(フールプルーフ)の導入と、ダブルチェック体制の構築が最も効果的です。個人の注意力をあてにするのではなく、物理的にミスが起きない「壁」を増やすことに注力します。
① フールプルーフ(ポカヨケ)の導入
「人は間違えるもの」という前提で、間違えようがない仕組みを作ります。
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(例)向きが逆だとセットできないジグ、工程を飛ばすと次へ進めないインターロックの導入。
② 複数人・複数回による確認(多重防御)
一人によるチェックは、その人の体調や気分という「一つの穴」に依存します。
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(例)指差し呼称の徹底、ダブルチェック、トリプルチェック。
③ ヒヤリハット報告の活性化
「事故にならなかったラッキーな事例」こそが、開いている穴を教えてくれます。
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(対策)ミスを責めない文化(ノーブレイム・カルチャー)を構築し、小さな違和感を吸い上げる。
④ PDCAサイクルによるマニュアルの刷新
ルールは一度決めたら終わりではありません。
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(対策)現場作業者の意見を取り入れ、常に「守りやすく、実態に即した」内容に改善し続ける。
⑤ ロジカルシンキングによる根本原因分析
なぜミスが起きたのか? 「なぜ」を5回繰り返すことで、個人の不注意のせいにするのではなく、組織としての「潜在的エラー」を突き止めます。
まとめ:安全は「点」ではなく「面」で守る
スイスチーズモデルは、製造業におけるリスク管理において非常に有効な手法です。一つの対策(一つのチーズ)だけに頼ることの危うさを教えてくれます。今日起きた小さなヒヤリハット。それは、チーズの穴が一直線に並びかけているサインかもしれません。
製造現場のリーダーに求められるのは、作業者の注意力を高めることだけではありません。「設備・ルール・管理・環境」という複数の防護壁を重ね、たとえ一箇所でミスが起きても、次で食い止められる「重層的な安全網」を築くことです。
ヒューマンエラーや設備の故障、企業文化に起因するリスク要因を多層的に管理することで、事故の発生を未然に防ぐことが可能です。さらに、事故やトラブルを未然に防ぐためには、従業員教育やルール遵守だけでなく、現場の見える化やデータ活用が重要です。
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この記事を通じて、製造業の経営者、現場責任者、DXやIT担当者の皆様にとって、不明点の解消やポイントの理解に繋がり、実際のプロジェクトに活用していただければ幸いです。
参考文献・出典
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James Reason『Human Error』(Cambridge University Press)
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厚生労働省『職場の安全サイト:スイスチーズモデル』 — https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pgm/SHISYO_FND.aspx?keyword=%e3%82%b9%e3%82%a4%e3%82%b9%e3%83%81%e3%83%bc%e3%82%ba
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独立行政法人 労働政策研究・研修機構『ハインリッヒの法則』 — https://www.jil.go.jp/


















