製造業で納期遵守や在庫過多、あるいはコスト削減といった課題はありませんか?日々の生産計画を立てるうえでも、余剰在庫が増えれば保管コストの負担がかさんだり、現場での管理が煩雑になったりして、経営全体に影響を及ぼします。逆に在庫が少なすぎると、受注が増えたときに納品が間に合わないなどのリスクも高まります。
GMROIという指標を活用すれば、単に在庫を減らすだけでなく、より高い利益率を生み出すための在庫投資が行えるようになります。
本記事ではGMROIの基本から、在庫回転率やROIとの違い、GMROIを向上させる具体的な方法、そしてその計測・活用における注意点まで、実務に役立つ情報を盛り込みながら丁寧に解説していきます。ぜひ参考にしていただければ幸いです。
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1. GMROIとは何か
GMROI(Gross Margin Return on Inventory Investment)とは、在庫投資額に対してどれだけの売上総利益を上げられたかを示す指標です。一般的には「売上総利益 ÷ 在庫投資額」で算出され、その結果として得られる値が1より大きいほど、投資した在庫から大きな利益を得ていることになります。売上高や利益が一定でも、在庫投資額が最小限に抑えられているほどGMROIは高くなるため、在庫を効率的に扱うかどうかを測る重要なKPIとして注目されています。
製造業では、原材料や部品などの在庫をいかに適切に管理するかが大きな課題です。需要予測や生産スケジュールとの兼ね合いで在庫が不足すれば、納期遅延や機会損失につながります。一方で余剰在庫が増えれば、保管コストの増大や在庫自体の経年劣化による価値下落などが発生し、最終的には収益を圧迫しかねません。こうした状況下で、GMROIは「どの程度の在庫でどのくらいの利益を得られているか」を数字で可視化する手段となります。たとえば、GMROIが「2.0」であれば、1円の在庫投資に対して2円分の売上総利益が得られているということになります。これは在庫管理の効率を測るうえで非常に分かりやすい指標といえるでしょう。
また、GMROIはメーカーだけでなく小売業界でも広く使われている概念です。小売の場合、店舗ごとに置く商品の品揃えや在庫量を細かく調整し、回転率を上げることでGMROIを最大化します。一方、製造業では完成品はもちろん原材料や部品の在庫管理が中心になるため、その計算過程や運用は小売業とは少し異なります。しかし「在庫に対する利益率をいかに高めるか」という根幹の考え方は同じであり、GMROIを導入することで、在庫水準を適切に保ちながら最大限の売上総利益を獲得する仕組みを構築しやすくなります。
さらにGMROIは、ただ在庫を減らすだけではなく、「価値を生む在庫」にしっかり投資をすることの重要性を示してくれる指標でもあります。単に在庫を削減するだけでは、突発的な受注増に対応できないリスクや顧客満足度の低下などを招きかねません。GMROIを用いて投資対効果の高い在庫かどうかを見極めることで、コストとリスクのバランスを取り、より戦略的な在庫管理を実現できるのです。こうした背景から、近年は製造業でも在庫管理の高度化や生産性向上を目指す際にGMROIを活用するケースが増えてきています。
2. GMROIと在庫回転率・ROIとの違い
GMROIと混同されやすい指標として在庫回転率があります。こちらは「一定期間内に在庫が何回転したか」を示す数値であり、「売上原価 ÷ 平均在庫高」で表されることが多いです。在庫回転率が高いほど短期間に在庫が回転していることを示し、一見するとGMROIと似たような役割を果たしているように思えます。しかし両者には明確な違いがあります。GMROIが「在庫投資に対する売上総利益」の効率を問う指標なのに対し、在庫回転率は「どれだけ効率良く在庫を動かしたか」をコスト面(主に売上原価)でとらえる指標です。つまり在庫回転率は数量や動きの速さを重視し、GMROIは利益を重視すると考えると分かりやすいでしょう。
また、ROI(Return on Investment)という用語もよく耳にするかもしれません。ROIは「投資額に対してどの程度のリターン(利益)が得られたか」を測定する経営指標の一つですが、ここでいう投資額には設備投資や開発費など、企業活動全般にわたるさまざまな項目が含まれる場合が多く、在庫投資だけに特化した指標とは限りません。対してGMROIは在庫投資額にフォーカスしており、「在庫に投じた資金がどれだけ収益を生み出しているか」を直接評価できるのが大きな特徴です。
製造業の観点から見れば、在庫回転率だけを高めても、低利益率の品目ばかりを回転させていれば利益は伸び悩む可能性があります。極端な例を挙げれば、単価が安くて利益率の低い製品が早く売れて回転率を上げても、全体の利益はあまり増えないかもしれません。一方、GMROIを高める視点で考えると、低回転でも高い利益率を確保できる在庫があるなら、その在庫に投資するメリットがあると判断できる場合もあります。したがって、在庫回転率とGMROIはどちらかだけを重視するのではなく、組み合わせて総合的に判断することが望ましいでしょう。
要するに、在庫回転率は「モノの動きの速さ(効率)」、GMROIは「在庫投資の利益効率」、ROIは「投資全般のリターン」を把握する指標と整理できます。それぞれの指標には得意分野があり、どれか一つだけをみていては経営全体のバランスを欠いてしまいがちです。GMROIは「在庫投資の妥当性」を測るための柱として位置づけやすい指標であり、在庫回転率やROIなどの他の指標とも併せて、総合的に在庫管理と投資の最適化を図ることが大切です。
3. GMROIを向上させる方法
それでは、実際にGMROIを高めるにはどのようなアプローチが考えられるでしょうか。ポイントは大きく分けて「売上総利益を増やす」か「在庫投資額を抑える」か、あるいは両方を同時に実現することです。具体的には以下のような施策が考えられます。
1つ目は、需要予測の精度を高めることです。多くの製造業では、需要予測が甘くなると余計な在庫を抱えたり、必要な在庫が不足したりするリスクが生じます。近年ではAIや統計解析を活用した高度な需要予測ソリューションも登場しており、月次や週次だけでなく、日次レベルでの需要変動も考慮しながら在庫を管理するケースが増えています。これにより、過剰在庫や欠品を防ぎつつ、必要最小限の在庫投資で済ませることができ、結果的にGMROIの向上につながるのです。
2つ目は、生産計画と在庫管理システムの連動を強化することです。生産スケジュールの遅延や工程間でのムダを可視化し、最適なタイミングで生産を開始できるようにすることで、無駄な在庫が発生するリスクを抑えられます。また、原材料や部品の在庫補充のタイミングを適切に管理すれば、必要なものを必要なときに手配できるようになり、資金の固定化を防ぐことが可能です。
3つ目は、製品ごとの利益率と需要動向を踏まえた在庫コントロールです。すべての商品を一律に同じレベルの在庫数で管理するのではなく、利益率の高い商品の在庫を手厚く確保し、利益率の低い商品の在庫は必要最小限に抑えるなど、メリハリのある在庫配置を行うことが重要です。これにより、限られた資金をより高い利益を生む在庫に投資する形になり、GMROIを高める効果が期待できます。
4つ目は、売上総利益自体を伸ばす施策です。具体的には、差別化要素の強化や製品の付加価値向上によって販売価格を引き上げる、あるいは原材料の購買コストや製造コストを削減するなど、いわゆるマージンアップのための努力が挙げられます。供給側に立つ製造業の場合、価格競争力を維持しつつ高い利益率を確保するのは容易ではありませんが、新技術の導入や効率的な生産方式への転換など、長期的な視点での投資が成果につながる場合があります。
以上のように、GMROIを向上させるには需要予測の精度向上、生産管理・在庫管理システムの連動強化、利益率に応じた在庫投資の優先順位づけ、そして売上総利益そのものの増大を目指すことが重要となります。特にシステム面では、リアルタイムで在庫状況や生産計画を可視化できる仕組みがあると非常に大きな効果を発揮します。DXやITの担当者の方は、具体的にどのような管理システムを導入し、どのようなデータをどのように活用すればGMROIが向上するのかを意識的に検討してみてください。
4. GMROI計算の注意点と活用の流れ
GMROIは在庫投資額と売上総利益さえ把握できれば計算が可能なので、一見すると難易度の低い指標に思えます。しかし、実務でGMROIを有効に活用するためにはいくつかの注意点があります。まず注意しなければならないのは、「どのタイミングの在庫投資額を使用するか」という点です。一般的には平均在庫額を用いるのが望ましいとされ、在庫の増減が激しい製造業の場合は、月次や週次など、できるだけ細かいスパンでの平均在庫を割り出すことが精度向上につながります。
また、売上総利益を計算する際には、工場で発生する間接コストをどこまで反映させるかも検討が必要です。原材料費と直接人件費、製造経費などを含めて正確な製造原価を算出しないと、実態とは異なる利益率が出てしまいます。特に多品種少量生産を行っている工場では、品目ごとに原価計算が複雑化しがちです。そこで、原価計算システムを整備し、実際のコストを正しく把握することで、GMROIの算出に必要な売上総利益をより精緻に計算することが可能になります。
次に、GMROIを算出したあとの運用フローが重要です。計算結果の数値をただ見て「高い」「低い」を判断するだけではなく、「どのカテゴリーやどの製品のGMROIが高いのか・低いのか」を細分化して確認する必要があります。たとえば、部品AのGMROIが高いけれど部品BのGMROIが低い場合、部品Aは需要が高く利益率も良好な一方、部品Bは利益率が低いのに在庫投資額が大きい可能性があります。そのようなケースでは部品Bの在庫水準を再考したり、代替品の検討や製品ラインナップの見直しにつなげたりすることができます。
さらに、GMROIは時系列で追うことも大切です。月ごとや四半期ごとにGMROIがどのように推移しているかをチェックし、季節変動や需要の乱高下に応じて適切な修正を加えていくことで、より効率的な在庫投資が継続できます。もちろん、GMROIだけにこだわりすぎるのも危険です。たとえば、需要が急増しそうな製品は一時的に在庫投資を増やしてでも顧客対応を優先すべき場合があります。GMROIはあくまで一つの重要なKPIであり、製造現場の実態や顧客の要望を踏まえてバランスよく運用することが成功のカギです。
まとめると、GMROIを導入・活用する際は「平均在庫額と売上総利益の計算精度」「個別製品やカテゴリーごとの数値把握」「時系列でのモニタリング」の3点が大きなポイントとなります。これらをきちんと行うためには、現場のデータをリアルタイムに収集・分析できるシステム環境が整っていることが理想です。経営者やIT担当者の方は、自社の在庫管理システムや生産管理システムがこれらの要件を満たしているかどうか、ぜひ一度チェックしてみてください。
まとめ
本記事では、GMROI(Gross Margin Return on Inventory Investment)という指標を中心に、在庫管理における経営効率化の方法や、在庫回転率・ROIとの違い、そして具体的な改善策を解説してきました。GMROIは「在庫投資額に対してどれだけの売上総利益を生み出せたか」を示す重要な指標であり、製造業においては、余剰在庫や不足在庫のリスクを最小化しつつ利益を最大化するための戦略的な在庫管理に役立ちます。需要予測の精度向上や生産計画との連動、利益率に応じたメリハリのある在庫投資など、さまざまな手段を組み合わせることでGMROIを改善し、企業の競争力強化と利益拡大につなげることができるでしょう。
そのためには、リアルタイムでの在庫情報や正確な原価計算データの把握が欠かせません。ITやDXを推進する部門が中心となり、現場の声を吸い上げながら最適なシステムを導入・運用していくことが求められます。その際、単にデータを集めるだけでなく、分析やレポート作成などの業務プロセスを自動化し、現場担当者が迅速に意思決定できる環境を整えることも大切です。
こうした背景のもと、生産管理システムの導入を検討されている場合は、ぜひクラウド型生産・販売管理システム鉄人くんを選択肢の一つとしてご検討ください。
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