在庫管理の優先度決定手法

原価管理

在庫管理の優先度決定手法

製造業において在庫管理は重要です。在庫が管理されていなければ生産は止まり、ユーザーのニーズに応えられない事態が起こりうるのです。たびたびそんな事態が起これば、信用は低下し業績は悪化することでしょう。

この記事では、在庫管理のうちでも煩雑な消耗品について、在庫管理に優先順位をつけ簡略化する方法を解説します。

適正在庫とは

適正在庫とは、必要最小限の在庫数のことです。在庫が過剰になると、必要以上の置き場所が必要になります。既存の倉庫がいっぱいになり一時的に貸倉庫を借りるといる事態にもなりかねません。つまり余計なコストがかかります。一方、在庫不足が起こると販売機会を逃すうえ、長期ユーザーが他社製品に流れる事態も想定されます。適正な在庫を維持することは、コスト削減につながり売り上げにも貢献するのです。

在庫管理の範囲

適正在庫を維持するためには在庫管理が必要です。そして在庫管理は、製造品と原材料、消耗品すべてに対して必要なのです。いまでは、製造品、原材料について見える化し管理することは、あたりまえにされていることと思います。しかし製造品が作られるまでには消耗品の管理も欠かせません。ネジやセンサ、ケーブルなどの消耗品について、どの品番のものが何個あるのか管理されずに放置されていたらどうなるでしょう。部品が1個がないだけで製造が1ヶ月止まるということも現実に起こりうる話です。適正な製品在庫を持ち利益を最大化するためには、製品の完成までに必要なすべてについて在庫を管理する必要があります。

在庫管理と優先順位

消耗品の在庫管理を始めようとして、まず必要になるのは“なにを、どこまで管理するのか?”という問題です。あなたの製造現場に在庫としてある物品はいくつあるでしょうか?製造に使用するもの、点検に必要なもの、清掃に必要なもの、記録に必要なもの…etc。数百?数千?どの製造現場でも膨大な数にのぼるでしょう。品目数を数えるだけでも目が回りそうです。

最初から、膨大なすべての品目について在庫管理を実施しようとすると混乱を生じる可能性が高くなります。なにせ品目は山のようにあるのです。“在庫管理を張り切って始めてみたけれど、情報入力が終わらず運用できない”なんて、情けないことになりかねません。そのうち、膨大な入力時間に見合わない成果しか上がらないまま放置されてしまい、ついには歴史の遺物に成り下がってしまうなんてことも考えられます。こうなると導入コストから人件費まで全てが無駄になります。

また、管理方法が実情に合わずルール変更をするというのも導入初期にはよくあることです。品目を膨大にするとルールの変更の為にシステム内のデータを変更するにも膨大な時間がかかります。そんなことにならないために、まずは優先順位の高いものを在庫管理してシステムを作ってしまいましょう。

まずは、いちはやく成果をあげて在庫管理の有用性を示すのです。そのためには、消耗品在庫に優先順位をつけましょう。優先度がそれほどでないものについては、在庫管理方法が安定してから、優先度の高い順にシステムに入れればいいことです。

あなたは何がしたいのか

あなたは在庫管理でなにをしたいですか?

見える化ですか?コスト削減ですか?突然のトラブルが発生した際に部品がなくて生産がとまってしまう緊急事態を起こさないためでしょうか?海外から納入される整備部品の納期が間に合わず定期整備を先延ばしにしてリスクを負わないためでしょうか?それとも、必要かもしれないと購入したはずなのに、棚からあふれているボルトや配管、ケーブルの在庫を減らすためでしょうか?

在庫管理を始めるにあたって、まず在庫管理をする目的を担当者にまで周知する必要があります。実際にはどの目的も達成したいのが本音でしょうが、導入時には担当者にまでわかりやすく説明できるようにしたいものです。

優先度の設定には、入力基準が曖昧になるリスクを避ける利点もあります。特に購入実績の金額で抽出する方法はリスト化できますから、リスト化されたものだけを入力するというルールを守ってもらえさえすればいいのです。優先度の設定はわかりやすく、とりあえず入力してしまうのを防ぎます。在庫管理の品目が裏付けなしに増えて混乱するのは避けたいものです。

対象品の見極め方

在庫管理の対象品を抽出する方法として以下の3つの視点が挙げられます。以下で詳しく説明します。

  1. 購入実績
  2. トラブル実績
  3. 点検整備項目

1.購入実績から抽出する

在庫管理をするにあたって、まずは購入実績のリストを基にすることをお勧めします。これは主にコスト優先の考え方になりますがリスク管理も含んでいます。なぜ購入実績から抽出するのをお勧めするかというと、購入実績なら、在庫を網羅できるうえ、すでにリスト化されていることが多いからです。

購入実績から抽出する方法として以下の3つをお勧めします。

  • 金額から抽出する方法
  • 工程から抽出する方法
  • 納期から抽出する方法

購入実績の金額から抽出する方法

購入実績のリストを基にする方法の中でも、まずは、この項目を実施することをお勧めします。この方法は線引きがしやすく、わかりやすい方法だからです。

方法は簡単です。膨大な購入品目のうち累計購入金額の多いものから抽出するのです。抽出後、全購入金額に対する比率を出せば、もっとわかりやすくなるでしょう。一般的に言って、購入金額が多ければ、在庫管理を実施した時の成果が大きく出ます。コストの削減率も高くなるため実績になりやすく担当者のモチベーションアップにもつながります。

購入実績の工程から抽出する方法

工程というのは、購入伝票を発行している工程のことです。購入実績から複数の工程が同じ品物を購入していることが判明した場合、在庫管理の優先順位が上がります。

複数の担当者の判断で購入している品目は、各担当者は無駄なく購入しているつもりでも、全体で見た場合には無駄が生じている場合が多いものです。すなわち、在庫管理で無駄をなくすことができる可能性が大きいのです。これらの品目は管理する価値が高いといえます。

納期から抽出する方法

こちらはリスク管理を考慮した方法になります。在庫の品目が欠品した場合、1日で納入される場合には、ほとんど問題になりません。しかし、納期が1ヶ月だったらどうでしょうか?製造現場は混乱し生産計画まで変更する必要が出てきます。最悪の場合、その品目が入荷するまで1ヶ月の間、生産停止に追い込まれます。したがって納期についてリスクを考慮する必要がある場合は、在庫管理の品目として挙げる必要があります。

この項目の場合、現場への問い合わせが時間短縮となる場合が多いことも覚えておくと便利です。現場担当者は、この部品は納期が長いという情報を経験的に持っています。

購入実績から抽出する便利さ

購入実績から抽出することには別の面でも利点があります。それは、購入頻度がわかるということです。購入頻度がわかれば使用頻度も推察できます。つまり在庫管理の精度が上がるということです。年間に何個使用しているかがわかれば予算も立てやすくなります。

ただし、運用前に現場の在庫の確認を忘れずにしてください。心配症な担当者が10年分の在庫を持っている可能性もあります。

2.トラブル実績から抽出する

これは、主にリスクをもとに管理する手法です。

過去のトラブルの際に必要になった品目は在庫管理に入れるという考え方です。チョコ停以外の停止については記録が残っている場合が多いと思いますので、それをリスト化します。起きやすいトラブルに必要な品目については在庫管理の必要があります。

ただし、起きやすいトラブルについては発生原因を照査して発生しない方策をとることが最も大切です。定期的に消耗する部品であれば点検整備項目に組み込み、トラブルをおこさないような手立てを考えましょう。発生原因が判明し同じトラブルが起きなくなった場合には在庫管理項目から外すこともできます。

生産停止につながらないようにするためには、トラブル実績は有効うな資料です。センサなど精密機器であり自社修理ができない場合でもユニットごと交換することで自社対応が可能になる場合があります。ユニットを在庫の単位として設定することで、停止時間を短くすることも可能になります。

3.点検整備項目から抽出する

製造するためには機械のメンテナンスも欠かせません。点検整備は良好な稼働状況を作るために必要なものです。点検整備の項目から在庫管理の必要な物品を挙げてもらうことができます。これは、現場の方にお任せできるやり方です。まとめるときには各工程で出した物品が重なっていないか確認が必要です。

また、点検整備は年に1回、5年に1回など長期の実施間隔を持つものがあります。長期の間隔の整備時では通常では使用されない量の物品が必要になることも多いですし、ナットやネジなど消耗品が膨大に必要になる場合もあるでしょう。大きな点検整備がある場合には、購入実績では抜け落ちてしまう在庫があることを知っておきましょう。消耗品が多量に使用される大きな整備の場合には、必要がある場合に、必要なだけ購入し使ってしまうという方法で在庫管理項目を減らす方法もあります。

品目の定期見直し

時間の経過とともに優先順位は変化します。とくに製造品目の追加や削減といった場合には必要な品目が増えたり、使わなくなった品目があったりと、大きく変化がみられるものです。

また、トラブル対応に伴って使用品が変わったり、増えたりすることもあるでしょうし、法律の改定で必要になるものも出てきます。

品目は定期的に見直しを行い効率的な管理を実施しましょう。

まとめ

在庫管理は便利なツールですが、始める際には注意が必要です。なぜなら初期設定が後々まで響いてくるからです。

膨大な品目をできるだけ簡略化してスタートできるように、優先順位のつけ方をご紹介しました。あなたの製造現場に必要十分な在庫管理を導入する一助になれば幸いです。良質な製品を無駄なコストをかけることなく生産できるように在庫管理を利用していただければと思います。

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