製造業は、原材料から、より付加価値の高い品を製造し、利益を得る業態です。また、在庫管理が重要な業態でもあります。
在庫といっても最終製品だけではありません。原材料、ボルト、配管、チェーン、圧力計などの部品、フィルター、オイル、洗剤などに至るまで、製造業には在庫といわれるものが多くあります。
あなたの職場では、これらの在庫が管理されているでしょうか?
前担当者が買っているはずの部品が、どこに置いたかわからなくなって慌てて購入したことはありませんか?
10年以上倉庫に置きっぱなしの在庫を抱えていませんか?
この記事では、 現在の製造業で整備できていないことが多いと思われる部品や消耗品の在庫管理について焦点を絞って考えていきたいと思います。
在庫管理のできている会社は、無駄のない経営をしている会社と言えます。ぜひ在庫管理の課題を解決して強みに変え、グローバル化社会で差をつけましょう。
1.在庫管理とは
「在庫管理は、イメージできるけれど明確に説明できない。」そんな方は多いと思います。
まず、JIS(日本工業規格)での定義をご紹介します。
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JIS Z 8141 生産管理用語
必要な資材を、必要なときに、必要な量を、必要な場所へ供給できるように、各種品目の 在庫を好ましい水準に維持するための諸活動。
JIS B 3000 FA-用語
工場内の原材料、部品、仕掛品、製品などの在庫量を適正にかつ、経済的に維持する管理活動。
JIS Z 0111 物流用語
完成品・仕掛品・部品・原材料など棚卸資産の量を適正に管理する活動。
市場の需要動向に即応して品切れまたは余剰在庫の発生を防止し、キャッシュフローと棚卸資産回転率とを同時に向上させて、顧客満足と経営効率とを追及するロジスティクスの中心的活動である。
また、そのために在庫拠点での在庫差異を防止したり保管効率を向上させる活動を、現物管理として在庫管理という場合もある。
製造業視点で在庫管理をまとめると以下になります。
- 完成品(製品)、仕掛け品、部品、原材料などの量を適正に維持・管理する活動
- 顧客満足と経営効率とを追及する活動
- 必要な量を、必要な場所へ供給できるように、各種品目の在庫を好ましい水準に維持するための諸活動
今回、部品や消耗品の在庫管理に焦点を絞ったのは、現在の製造業の状況を考えると、実は、できていないことが多いと思われるからです。
完成品(製品)、仕掛け品については管理の考え方が違うため、ここでは省きます。
また、原材料の管理については、今回の考え方で管理ができますが、下請けのある場合などには考え方が違いますので省きます。
2.なぜ在庫管理が重要なのか?
なぜ在庫管理が必要かについては、在庫管理ができていない場合を考えれば、わかりやすいです。
在庫管理ができていないと、次のようなことが起こりがちです。
- 在庫超過で廃棄する
- 在庫がなくて生産が停止する
- 担当者が休暇を取ると在庫がわからくなる
1.在庫超過で廃棄する
そもそも、在庫とはなんでしょうか?それは、資産です。金銭を支払った代償として、部品や消耗品の価値を買ったものです。
もし、滅菌したフィルター、作業環境管理の検知管など使用期限があるものについて在庫超過が発生したら、もしかすると期限超過で使用できなくなります。期限超過の品を無理に使用すると保証がないばかりか、コンプライアンス違反で企業自体が立ちいかなくなることになりかねません。
2.在庫がなくて生産が停止する
もし、生産に直接影響する部分が不具合をおこしたとします。部品交換をすれば治るという場合に部品の在庫がないというのは、最悪のシナリオです。
もし、それが受注生産の品で海外から取り寄せるものだったらどうでしょうか?最悪、その製品の生産は何ヶ月も遅れる可能性があるのです。
3. 担当者が休暇を取ると在庫がわからくなる
不思議なことに、トラブルは担当者が休みを取った日におきがちです。
ヒューズを変えるだけで復旧する簡単なトラブルでも、在庫がどこにあるのかわからなければ治せません。
休暇中の担当者に連絡を取ろうとしても、電波の届かないところにいる可能性だってあります。また休暇中でなくても、製造業の場合生産体制が2交代、3交代などで、担当者がいないことはよくあることだと思います。
3.理想の在庫管理とは?
以上のことから、理想の在庫管理を考えると期限切れを起こさない程度に少ない量で、生産を止めない程度に在庫を持って、誰もがわかる方法で管理するとなります。
4.在庫管理の5つの課題
では、なぜ部品や消耗品の在庫管理ができないのでしょう。在庫管理ができないのには理由があるはずです。
ここでは課題として5つあげました。
- いつ使ったかわからないから
- 誰が購入したかわからないから
- いつ入庫するかわからないから
- どれくらい使うかわからないから
- いつ必要かわからないから
これらは、すべて”見える化”の課題です。理想の在庫管理を目指す道は、見える化への道です。
5.課題解決への道
では、見える化への道について説明します。
5.1 見える化する
ひとくちに見える化をするといっても、在庫の数は膨大です。コツコツと、ひとつずつ見える化していく方法など、終わるとも思えません。コツコツできる方は、長い道をあるきはじめてもいいのですが、簡単な方法をご紹介します。
step1.購買の実績をまとめる
まず、過去の購買についてのデータをまとめましょう。データ保管にエクセルや管理ソフトを使用しているなら、あっという間です。
そして、期間中に何にどれだけ費用が掛かっているのかを集計し、購入費用が高い方から並べます。これで実績がまとまりました。
step2.管理品目を決める
購入費用が高い品目から管理をすすめ、効率化していきます。こうすると結果につながりやすく、あなたの実績にもなるでしょう。
業務の改善は、製造業の業務のひとつです。また、過去に在庫が切れそうになって、業者に納入を急がせた品目と、期限切れになって廃棄したことがある品目についても在庫管理の優先順位を上げておきましょう。
5.2 発注点を確認する
在庫管理する対象が決まったら、その品目を購入するタイミングを確認します。
例えば、フィルターが1になったら、次を購入しているとか、オイルの最後の缶をあけたら次を購入しているとかいうタイミングのことです。その購入タイミングで、現在うまくいっているならば、その方法を採用しましょう。
そしてそれを、だれにでもわかる形にしておきます。例えば、在庫置き場に表示するとわかりやすいです。ベテランでなくても購入行動につなげることができます。
もう1つ、 在庫が切れそうになって、業者に納入を急がせた品目や期限切れ廃棄をおこす品目は、何度も同じことがあるようならば、面倒でも”なぜなぜ分析”などの発生原因の分析から始めるのをお勧めします。
なぜなぜ分析(なぜなぜぶんせき、英語:Five whys)とは、ある問題とその問題に対する対策に関して、その問題を引き起こした要因(『なぜ』)を提示し、さらにその要因を引き起こした要因(『なぜ』)を提示することを繰り返すことにより、その問題への対策の効果を検証する手段である。トヨタ生産方式を構成する代表的な手段の一つである。
個人攻撃に向かわなければ、なぜなぜ分析は有効な手法です。
ちなみに、在庫が間に合わない場合の原因として、以下のようなことが考えられます。
- 発注点の設定が不適切だった。
- 数が把握できていなかった。
- つい忘れた。
- メーカーが納入遅延をおこしていた。
- 忙しさに紛れて購入が遅れた。
- 購入の担当があいまいで”誰かがするだろう”と思っていた。
- 購入作業ができる人が少なく、タイミングが合わなかった。
- 購買の伝票の書式が違い、戻ってきて書き直した。
- 決済担当者が、人事異動で不在だった。
- その他
いずれにせよ、何回も同じことが起こるのであれば、構造的な対策が必要です。
逆に期限切れ廃棄の場合の理由として以下のものがあげられます。
- セールだったのでたくさん買ってしまった。
- 送料を節約するため買いすぎた。
- 在庫があるのに気づかなかった。(先入れ先出しができていなかった)
- 使用数に比べ、多すぎる入れ目の品目しかなかった。
- 法令の変更で使用期限ができた
- その他
在庫が間に合わない場合には構造的な問題もありますが、品目の入れ目の問題や法令の変更など外的要因も影響が大きいです。
送料無料になっても、送料以上の期限切れ廃棄をおこしては元も子もありません。利益と損益を考慮し、もっとも有利なやり方を選択する必要があります。
5.3 必要ないものは処分する
製造業にとって、製造現場は戦争の前線のようなものです。効率よい生産が求められますし。停止は最短の時間であるべきです。そこには、必要不可欠なものだけ置き、最短で使用できるようにしなければなりません。
使用しないものが、ごちゃごちゃしているだけで、集中力が低下します。すでに生産終了した品目や変更する前に点検整備にしか使用しないものは、必要ないものです。
最低でも、場所を変え、現場に置いておかないことです。
5.4 出入を管理する
在庫管理をする品目については、購入依頼をした日と数、在庫数、入庫した日と数、在庫数は管理しましょう。
購入してから入荷までのリードタイムの参考になります。リードタイムがわかれば、在庫管理の精度が向上します。
5.5 シンプルに管理する
在庫管理方法は、できるだけシンプルにすることがコツです。
在庫の場所に発注点が書いてあったり、発注点以下になったら、目印を発注用のパソコンのそばに置けるようにしておいたりするなど、小さな工夫で、 ”気をつける・注意する”という、あいまいで忘れやすい行動をせずにすみます。
プログラムを使用して、インプットするだけで在庫管理ができる方法を導入する方法も賢いやり方です。
5.6 続くやり方で管理する
在庫管理は、続いていくものです。
始めたけれど続かない方法なら、やる必要はありません。労力が少なく、やりやすい続く方法をみつけましょう。
それは、メンバーの性格にもよりますし、スタートの方法にもよります。
最初のひと月は、声掛けや重点実施項目として定期的にグループディスカッションをするなど、習慣化のための方法を講じた方が続くでしょう。
まとめ
現在の製造業で整備できていないことが多いと思われる部品や消耗品の在庫管理について焦点を絞って在庫管理の課題と解決方法について説明してきました。
管理には、見える化が必要です。まずは、雑多な情報を見える化してみましょう。そこから、あなたの職場の課題が強みにかわるヒントが生まれるかもしれません。グローバル化する社会で生き残る製造業になるために、在庫管理を強みに変えてましょう。