製造業にとって、リードタイムの短縮は、多方面に大きな効果を発揮します。しかし、ただ従来の作業方法をみるだけでは、リードタイムの短縮の芽は見つかりにくいものです。生産管理的な手法で視点を定めて問題を抽出し、時間短縮のための対策を取ることが必要です。
この記事ではリードタイムの短縮に効果的な5つの視点と5つの方法を紹介します。
リードタイムを構成する作業について、視点と方法を複合して考えてみてください。きっとリードタイム短縮の芽が見つかり、実現の道がみえてきます。
リードタイムとは
リードタイムは、製品を作ることになって製造指図が出てから出荷されるまでの時間のことを表します。つまり「注文して何日でクライアントに届く段階になるか」であり、同じような考え方を先行日数や手番といって管理する場合もあります。
通常。リードタイムは、日数で管理されます。重要な工程間のリードタイムをそれぞれ設定し、複合的に管理される方法も多くとられる指標です。
1.リードタイムを設定する目的
リードタイムを設定する目的は主に以下のように考えられます。
- 出荷までの目安時間を把握し、販売計画を立案する目的
- 生産計画を作成する目的
- 欠品事故の防止する目的
- 異常の見逃し防止の目的
- 無理な生産を防止する目的
- 改善の指標とする目的
2.リードタイムの分類
リードタイムの分け方には色々な考え方がありますが、ここではリードタイムの短縮対策を前提として、5つの視点で分類します。
(1) 情報リードタイム
情報管理にかかる時間。生産の詳細を記載した手順書の準備や作業指図を出す指令伝達の時間、工程間を情報が動く時間が含まれます。
(2) 帳票リードタイム
帳票を確認し各工程に分配する時間、帳票を記載する時間、確認する時間、整理して、承認する時間が含まれます。
(3) 生産準備リードタイム
生産は準備がすべて整った状態で始まります。
生産に使う原材料を生産に使えるように準備したり、外注品を発注したりする工程。加えて、準備の整った原料や材料を、使用する工程に運ぶまでが生産準備リードタイムです。
生産準備は、もっとも煩雑で経験が必要な工程です。ミスが出やすい工程です。
(4) 生産リードタイム
生産リードタイムは、原材料を製品にするまでの工程です。設備を型替えしたり、洗浄殺菌する工程も入ります。
材料の洗浄や原料の混合、製品化や包装、梱包までが生産となりますが、工程検査の時間も生産リードタイムにはいります。
(5) 検査リードタイム
使用前に原材料を検査したり、完成した製品について性能を検査したりする品質保証の工程は近年重要性が増しています。小さなミスで製品の信用を傷つける事例は枚挙にいとまがありません。社外にイレギュラー品を出さないためにも検査のリードタイムが必要です。
-リードタイムの視点ごとの分類-
- 情報リードタイム
- 帳票リードタイム
- 生産準備リードタイム
- 生産リードタイム
- 検査リードタイム
3.リードタイムは少しでも短縮できれば大きなメリットがある
製品の工程数にもよりますが、各工程でリードタイムを1時間減らすだけでも結果的には1日以上生産時間が短くなります。そのことで、在庫は1日分少なく管理できますし、その在庫を保管する倉庫代の節約も可能です。また単純に考えて、同じ利益を出すのに1日短い日数しか必要ないため、製品にかかる人件費も日数×人数分減少でき、大きなメリットがあります。
また、リードタイムの短縮は顧客満足というメリットにもつながります。販売計画も立てやすくなり、製品の市場競争力を増すことができるのです。
このように、リードタイムは少しの短縮でも、多方面の大きなメリットにつながります。そして、そのためには生産管理の精度向上が欠かせません。
生産管理的な5つの視点と5つの方法でリードタイム短縮を目指す
リードタイムを短縮し大きなメリットを得るためには、生産管理的なアプローチが欠かせません。問題点を視点ごとに洗い出し、適切な考え方に従って業務を見直しましょう。
1.5つの視点で無駄な時間を洗い出す
時短を目指すためには、あいまいに考えずに視点を定め、無駄な時間を検証する方法が効率的です。ここでは製造業にできるだけ一般化できる項目を視点ごとに10個ずつあげました。箇条書きを読んで思い当たることがあれば、次に考えの選択の段階に進みましょう。生産品によっては特殊な工程もでてくるので、ここにあげた事例を応用して新しい視点の追加をおすすめします。
また、日常的に作業をおこなっている人は潜在的に無駄な作業を把握していることがあります。活動は管理者だけで行わず、できるだけ多くの目を使って無駄を洗い出すと効率的です。
(1) 情報の無駄を減らす視点
- 情報提供ルートは最短か?
- 情報提供ルートは確定しているか?
- 似たような数字を複数管理していないか?
- オンラインで行っている作業を、人も実施していないか?
- メールに変更可能な連絡方法を、ずっとFAXのままにしてコピーし、回覧するなど無駄な作業をしていないか?
- ハードディスクがいっぱいで、システムが遅くなっていないか?
- 必要ないのに紙媒体に情報を書き写していないか?
- 承認を待つために時間がかかっていないか?
- 旧判の情報は、混同しないところに保管されているか?
- 変更のある場合の連絡方法は適切か?
(2) 帳票の無駄を減らす視点
- 昔からやっているという理由で無駄な内容を記入していないか?
- インプットしているデータを手書きで書き直していないか?
- 品目によって同じ項目でも記載方法が違い確認に時間をかけていないか?
- 工程によって書式が違って間違いのもとになっていないか?
- 工程によって、同じものや作業の名称が違っていないか?
- 複数の工程が、同じ帳票に記入する必要があるなど時間を無駄にしていないか?
- 電子帳票ですむはずなのに紙媒体を使っていないか?
- 長いスクロールをしなければ見えない帳票はないか?
- 印鑑のために、作業員が工場中を歩き回っていないか?
- 紙の帳票がバラバラになって、順番を揃えるのに時間がかかることはないか?
(3) 生産準備の無駄を減らす視点
- 準備のための情報は、最短で必要な工程に届いているか?
- 入荷→試験→製造→試験の動線は適切か?
- 入荷形態、品目、入荷ロット、数量の確認は、間違いない方法になっているか?
- 材料原料が放置され、虫や雨で汚れ、清掃が必要なことはないか?
- 作業手順は品目ごとになっていて混同しないか?
- 外注品の発注はミスを発生させない方法になっているか?
- 外注メーカーのリードタイムは適切か?
- 準備作業をするとき、取り違えミスが発生しないようになっているか?
- 準備用の部品は取り出しやすく汚れない状態で保管してあるか?
- 欠品のリスクがある場合、確認しやすくなっているか?
(4) 生産の無駄を減らす視点
- 作業は適切か 要員は適切か?
- 仕掛け品の工程間の移動に無駄はないか?
- 異常品の位置は適切で、一目でわかり混乱していないか?
- 立ち上げの段取りは適切か、待ち時間はないか?
- 型替えの段取りは適切か、待ち時間がないか?
- 作業終了時刻は適切か?
- 次の作業に使用するものは、準備できる体制になっているか?
- 精密部品の整備のタイミングは適切か?
- ロット替わり 型替えの段取りは誰にもわかる方法で最適化されているか?
- 要員は教育され訓練されているか?
(5) 検査の無駄を減らす視点
- 入荷の情報は、準備可能なタイミングにきているか?
- 検体を受領する前には、試験の準備ができているか?
- 試薬、材料の欠品はない在庫管理ができているか?
- 担当者決めは適切に行われているか?
- 同じような項目を複数検査していないか?
- 異常を見逃さない試験項目設定になっているか?
- 要員は教育され訓練されているか?
- 異常時の対応のマニュアルはあるか?
- 試験実施サイクルは適切か?
- 同じ試験機器が必要で待つようなことはないか?
2.5つの方法でリードタイム短縮を実現する
リードタイムを短縮するには、5つの視点で見つけた無駄やムラを時間短縮につなげる考え方が必要になります。
リードタイム短縮を実現する5つの考え方をご紹介します。
(1) 時間のかかる工程をみなおす
工程のうち、最も時間のかかる工程を「律速工程」といいます。他の作業が早くなっても、律速工程に必要とする時間が変わらなければ、全体の作業は短縮できません。
リードタイムを短縮するためには、律速段階での時間短縮が必要であり、段取り的にも、できるだけ早めに取り掛からなければなりません。
どの作業が律速工程なのかを把握し、その作業を細かく分けて律速段階を把握し、短縮の方法を探ることから活動が始まります。
(2) 作業の早い人の動作を言語化・マニュアル化する
複数人で同じ作業をおこなう場合、作業の早い人と遅い人ができます。作業の早い人の動きを解析し、なぜ早いのかを言語化し、マニュアルに落とし込むことで、作業の無駄が省け、全体のスピードアップがはかれます。
(3) 作業を簡略化/省略する
長年同じ工程を繰り返していると、必要のない作業が入り込んでいる場合があります。
例えば、異物が入る問題が発生し全数の目視検査をおこなっていたけれど、洗浄液の液性の見直しで、同じ異物の出る可能性が低くなった場合などです。いままでの慣例で全数目視検査をやめずにいると、リードタイムが必要以上に長くなったままです。なんのために作業をやっているのかを忘れると往々にして同じようなことがおきます。
理論的に短縮が可能ならば、検査データをまとめて無駄を見える化する段階をとると、わかりやすく合理性がある短縮ができます。
(4) 繰り返し作業を自動化する
何度も同じ作業をおこなう場合は自動化ができないか考えてみましょう。前述した異物の問題の場合、目視で見つけられるものであれば光センサーを使用すると容易に自動化できることがあります。
例えば、センサー感度を厳しめに設定し、センサーが異常と判断したものだけ目視検査で確認するという方式をとれば、全数を目視検査する時間よりも大幅に時間が短縮できます。
(5) 煩雑な作業をシステム化する
型替えなど煩雑な作業はシステム化し、いちいち考えなくても作業ができるようにすればスピードアップをはかれます。
品目ごとに必要な部品をリスト化して作業前に揃えておく、システムを複数用意しファイルの変更だけですべての変更ができるようにするなど作業をシステム化すれば、人為的間違いによるイレギュラーな時間消費も防いでくれます。
コンピューターシステムの導入も有効です。生産管理や在庫管理などは管理システムを導入し、大幅な時間短縮を実現した例も多くあります。
-リードタイム短縮に近づく5つの方法-
- もっとも時間のかかる工程をみなおす
- 作業の早い人の動作を言語化・マニュアル化する
- 必要ない作業を簡略化する
- 繰り返し作業を自動化する
- 煩雑な作業をシステム化する
5つの視点と5つの方法でリードタイムを短縮を実現させよう
リードタイムを短縮するために役立つ5つの視点と5つの考え方について説明してきました。視点を決めて問題点を洗い出せば、網羅性が高くなり自社のリードタイムの弱点がみえてきます。また、実績のある方法で作業を見直せば効率よくリードタイムを短縮できます。
リードタイムの短縮は、コスト削減と顧客満足につながり、ひいては市場競争力のアップにつながります。
リードタイムを短縮を実現して、市場競争力の向上を目指しましょう。