製造業にもグローバル化の波が押し寄せています。製造業に必要不可欠な原価計算も、グローバル化にあわせて標準化が必要になってきていることをご存知ですか?
原価計算はエクセルなどの表計算ソフトを使っている方も多いと思いますが、エクセルでも原価計算の標準化はできるのでしょうか?
この記事では、グローバル化社会の中で、標準化が原価計算にも必要になってきている理由を説明しています。そして、原価計算の標準化をすすめるために必要な要件をあげ、エクセルでも標準化ができる方法を考察しました。これからも、勝ち残る製造業であるために、原価計算の標準化を進め、グローバル化の流れを味方につけましょう。
原価計算の目的はなにか?
原価計算は、原価管理をするために実施します。
1962年に大蔵省企業会計審議会から公表された「原価計算基準」のなかで示された原価管理の目的は5つあります。50年以上たっても基本は変わっていません。
原価計算に抜けや漏れ、ゆらぎがあって現実を反映していないようでは、安心して経営はできないでしょう。
- 財務諸表の作成のため
- 販売価格を決定するため
- 原価の内容を見える化し、原価の低減をはかるため
- 予算を管理するため
- 経営の方針を決定するため
1. 財務諸表の作成のため
財務諸表である損益計算書や貸借対照表は、売上原価と棚卸資産の算定をおこない監査を受けるために必要です。
2.販売価格を決定するため
製品の売上原価をもとにして、利益を考慮して販売価格が決定されます。原価管理をおこなうことで、どこまで値下げしたら赤字が出るかがわかります。
3.原価の内容を見える化し、原価の低減をはかるため
原価を見える化することによって、製造の効率を向上させたり、原材料のコストを下げる指針となり、いっそうの原価低減をはかることができます。
4.予算を管理するため
予算を管理するために製品の原価は必要です。過去の原価と社会情勢などから、今後の原価を見積もって試算します。
5.経営の方針を決定するため
動きの大きい社会情勢の中で、経営方針を決定するためにも原価は欠かせません。
変化する原価計算
製造業は、製品を製造し、製造品を顧客に販売してなりたっている業態です。
つまり、製造業では、
- 誰に売るか?(顧客)
- どんな仕様で売るか?(製品の仕様)
- いくらの原価で売るか?(原価)
- 価格はいくらで売るか?(価格)
ということを決定しているのです。
そして、これらはお互いに影響しあっています。
いまや、原料から販売先に至るまで、製造業で海外との関係がないところはないでしょう。
すべては、1962年の 「原価計算基準」の 公表当時に比べて多様化しています。
例えば、海外に生産拠点がある場合や、原材料を海外からの輸入に頼っている場合は、原価が変化します。その国の民族性に合わせた製品の仕様も変化するでしょう、顧客も様々でしょう。
その国の物価に合わせた売値もつけなければなりませんし、そうすれば製品の仕様を見直したり原価を見直す必要があるでしょう。
原価計算もグローバル化が必要になっているのです。
原価計算のグローバル化に必要なものとは?
原価計算のグローバル化するにしたがって、必要性が大きくなるもの、それが”標準化”です。
グローバル化した原価計算に標準化が必要な理由として以下の項目があげられます。
- 項目の考え方が文化によって違うため、あたりまえは、あたりまえでないこと
- 世界中にある事業所で、すべて同じ方法で原価計算をする必要があること
- 下請けと同じルールで原価の考え方を統一する必要があること
- 経営統合が実施された場合に、もともと企業風土が違う会社同士で標準化が必須となること
原価計算を標準化するには?
原価計算の標準化を実現するためには、以下の5つが必要です。
- 適切な原価計算システムの選択
- 費目の明確化
- 計算方法の明確化
- 適切な教育
- 客観的な検証
1.適切な原価計算システムの選択
原価計算の方法はいろいろですが、同じシステムに従って同じルールで原価計算をすることが重要です。原価計算の方法をいくつかあげ、それぞれに利点と欠点をあげます。
◇クラウド型システム
クラウド型システムは、システム販売者のサーバーにシステムを置き、そのシステムにパスワードなどで、それぞれのユーザーが入り、使用する方法です。システムの管理、アップデート、保存はメーカーに任せられますので会社内にインターネットの使用できるパソコンがあれば始められます。
クラウド型システムのメリット
- どこにいても、同じシステムにアクセスできる。
- 担当者ごとに権限を制限できるので、改ざんのリスクが少ない。
- 常に最新版が使える。
- 初期投資が少なくてすむ
クラウド型システムのデメリット
- 個性豊かなシステムがたくさんあるので導入時に比較が難しい。
- カスタマイズできないと、実情に合わない場合がある。
- 担当者ごとに権限を制限できるので、改ざんのリスクが少ない。
◇オンプレミス型システム
「オンプレミス」とは、製造業の場合、製造所にサーバーやソフトウェアを置き、運用する方法です。2000年頃までは、システムといえばオンプレミス型しかありませんでした。
オンプレミス型システムのメリット
- 社内でシステムが完結する
- 実績のあるソフトが多い
オンプレミス型システムのデメリット
- 導入費用が高い
- 事業所や部署ごとに、導入のタイミングがずれることがある。
- 事業所や部署ごとに、 アップデートの時期が異なることがある。
- システムを導入した後で、新工場が立ち上がった場合には、標準化できないことが多い。
◇表計算ソフトで作成したプログラム
プログラムをマクロなどを使用して作成し、自社用に作成する方法です。インターネット上には、原価計算ができるエクセルプログラムのソフトが数多く提供されています。そのプログラムを利用すると、案外楽にできるのかもしれません。
表計算ソフトで作成したプログラムのメリット
- 原価計算の費用が余分にかからない
- 自社の都合にあわせて、カスタマイズできる
- 費目が固定できる
表計算ソフトで作成したプログラムのデメリット
- システムの検証の手間がかかる。
- 表計算ソフトが、バージョンアップしたら使えなくなるリスクがある。
- よく知った担当者がいなければ直せない。
- 入力データは、生データごと保存する必要がある。
◇表計算ソフトに入力して計算
表計算ソフトにあらかじめ計算式をいれておいて、入力する方法です。マクロなどは使用せず原価計算をすることもできます。
表計算ソフトに入力して計算のメリット
- 比較的簡単に作成できる
- 原価計算の費用が余分にかからない
表計算ソフトに入力して計算 の欠点
- システム検証の手間がかかる
- 表計算ソフトがバージョンアップしたら使えなくなるリスクがある。
- コピペなどで計算式が壊れやすい
- 入力データは、生データごと保存する必要がある。
◇熟練した担当者の手計算
最近は、あまり聞きませんが、原価計算なら○○さんというプロのような方がいて原価計算をする方法です。
熟練した担当者の手計算のメリット
- 臨機応変に対応できる
- 原価計算の費用が余分にかからない
熟練した担当者の手計算のデメリット
- スキル伝承が難しい。
- 不正のリスクがある。
- 客観性がない
標準化しやすい原価計算の方法とは?
原価計算の方法を標準化しやすさという視点で並べました。
クラウド型システムは標準化向きです。同じシステムを使用することで、気を使わなければならないポイントは激減します。そのメリットは計り知れません。
2.費目を明確化
費目を明確化させることは、原価計算の標準化の基本中の基本です。なにをどの費目に含めるのかは実は難しい問題でもあります。
製造原価は、一般に以下の表のように分類されます。
例えば飲料製造の場合で混乱する要因をあげるなら、水はどこまで材料費に入れるのか、材料費の直接と間接がひとつの製品に混在するのか、すべてを材料費としてまとめて管理するのかなど、”揺らぐ”リスクがあります。原価計算が揺らがないように、担当者によって、また時間がたってルールが変化しないようにルールを確定し、はっきり明示しなくてはならず、手順書やマニュアルを整備しておく必要があります。
費目 | 意味 | |
材料費 | 直接 | 特定の製品に使用される原材料の費用
例)梱包容器 原料など |
間接 | 製品ごとにわけられない原材料の費用
例)オイル 機械部品 フィルターなど |
|
労務費 | 直接 | 製品を直接製造する工程の作業者の労務費 |
間接 | 生産管理、生産技術、品質管理、事務など、製品の製造に直接かかわらない工程の作業員の労務費 | |
経費 | 直接 | 外注加工費など製品に直接かかった経費 |
間接 | 工場の設備(減価償却費)、電力など、製品に直接かかわらない経費 |
3.計算方法の明確化
原価計算には、さまざまな方法がありますが製造業に関する基本的な原価計算として3パターンがあげられます。
- 標準原価計算
- 実際原価計算
- 直接原価計算
標準原価計算
あらかじめ科学的、統計的な方法決めた”原価標準”に標準消費量を掛けた理論値”標準原価”をもとにして行う原価計算の手法です。
実際原価計算
生産や販売、管理に要した原価の算出を実際の価格を用いて行う方法で、生産物によって種々の手法があります。
直接原価計算
製造過程で発生する費用を固定費と変動費に分け、変動費だけ計算する方法です。
原価計算の標準化のためには、どの指標をどの場面で使うのかを決定し、明確化することが大切です。決定した方法は、手順書やマニュアルで明確化しておく必要があります。
4.適切な教育
標準化された方法を、標準化して実施するためには、教育は欠かせません。OJTや資格認定も利用して実施しましょう。セキュリティ対策として、常に2人以上が実施できるようにすると良いでしょう。
5.客観的な検証
通常は定期的に原価計算をする場合が多いでしょう。でも、その数値を活用できていますか?
原価計算は、ただ計算するだけでは意味がありません。計算を実施したら、定期的に数字を確認し、検証しましょう。
グラフを作成し関係各所に提示するなど、さらなる見える化を進めることで、原価管理が自分ごとに捉えられる人が増えたり、客観性が増します。またミスも防げて、標準化を維持することができます。
まとめ
製造業がグローバル化をする社会を生き抜くには、原価計算の標準化は必須です。
原価計算を標準化するためには、① 適切な原価計算システムの選択、② 費目の明確化、③ 計算方法の明確化すること、④ 適切な教育、⑤ 客観的な検証が必要になります。
標準化には何はともあれ、まずは標準化しやすいシステムを導入するのが早道です。どこにいても、同じシステムにアクセスでき、担当者ごとに権限を制限できるので、改ざんのリスクが少なく、常に最新版が使えるシステムです。費目の明確化や計算方法の明確化も、システムにとりこめます。クラウド型システムなら、初期費用も少なくて済むなどメリットがあります。一度導入を考えてみるのはいかがでしょうか?
クラウド型システム以外の方法で、原価計算の標準化をするためには、標準化する視点をもつこと、個人的にシステムを変更できなくすること、アップデートは、同時に行うことが重要です。エクセルなどの表計算ソフトに原価計算を実施するのは、標準化の視点では、苦労が多く正直お勧めできませんが、ポイントを抑えればできないことはないでしょう。
勝ち残る製造業であるために、原価計算の標準化を進め、グローバル化を味方につけましょう。