製造業と在庫管理は切っても切れない関係です。消耗品や部品のコストロスは重要な問題です。在庫が適切に管理されてこそ製造業の利益につながり、事業が継続できます。
一方で、製造業は在庫管理に苦労する業態ともいえます。この記事では、在庫管理の課題診断を用いて、あなたの職場の在庫管理の課題の優先順位の見える化をおこないます。ぜひチェックして、職場にあった在庫管理の課題解決への方法をみつけだしましょう。
製造業の在庫管理の目的
一般的に在庫管理の目的は、”無駄なく必要な在庫を管理する”ことです。これは、製造業にもあてはまります。社内コンテストや定点観測の美しさのために在庫管理があるわけではありません。ましてや個人の自己満足のためでもありません。
製造業について在庫管理活動をまとめると以下ようになります。
- 製品、仕掛け品、部品、原材料などの量を適正に維持・管理する
- 顧客満足と経営効率とを両立する
- 必要な量を、必要なタイミングで、必要な場所へ供給できるように、各在庫を維持管理する
ここでは、製造業の在庫管理のなかでも部品や消耗品の在庫管理を念頭において話を進めます。現在の製造業の状況を考えると、もっとも課題が大きいと考えられるからです。
課題解決には優先順位が大切
課題を解決するためには、優先順位をつけて活動することが大切です。それは在庫管理でも同じことです。
優先順位を念頭におかないと職場の課題は残ったままになるかもしれません。
優先順位の高い課題について取り組むことは、問題の大きな部分から解決することですから目標に早期に到達しやすくなります。スピード感をもって目標に到達すれば組織自体のモチベーションも上がります。その経験で組織自体の問題解決能力も向上しやすくなり良い循環が生まれます。
在庫管理の課題診断をしてみよう
以下に在庫管理の不十分な場合に起こりがちな事象をあげました。まずは、あなたの職場にあてはまる項目をチェックしてみてください。
- 置きっぱなしになっているものがある (a)
- 購入した後、在庫がみつかったことがある (b)
- 担当者に場所を聞いても、すぐ答えられない (c)
- 使用後元に戻せていない (d)
- 在庫管理は時間が取れないからできない (a)
- 物の上に違う物が置いてある(b)
- 在庫は○○さんに聞くとわかる (c)
- 同じ品目の袋が2つ以上開いている(d)
- そもそも、ものが多すぎると思う (a)
- 置ききれずに床に置きっぱなしのものがある (b)
- 在庫のことは関係ないと思っている人がいる (c)
- 在庫管理の必要性を感じない (d)
- システムがないから在庫管理ができない (a)
- 何をどこに置くかが、なんとなく決まっている (b)
- わが社は在庫管理が遅れていてダメだ (c)
- 昔からのやり方が一番だ (d)
- 管理されているのは写真を撮っているときだけ (a)
- 袋から出したり出さなかったりと保管の状態が定まっていない (b)
- 同じ物品を、同じタイミングで複数の人が購入したことがある (c)
- 実は、管理されている状態を知らない (d)
チェックが終わったら、チェックした項目の後ろに書いてあるabcdの文字ごとにチェックを数えます。
一番チェックが多いものが、はじめにあなたの職場が取り組むべき職場の在庫管理の課題です。
あなたの職場が抱える在庫管理の課題は?
在庫管理の課題診断はチェックできましたか?
在庫管理の現状について、ここでは製造業の在庫管理の課題の原因を4つに分類しています。チェックした結果職場で一番の多い文字はなんだったでしょうか?
ちなみに各文字に対応する課題は以下の通りです。
先の質問には、abcdそれぞれが5つずつあります。以下に課題解決の必要性のめやすを示しました。チェックした項目がなければ以降は読む必要はありません。
- すぐに課題解決が必要
- 全体のチェック数が21個以上
- 各文字どれかのチェック数が5個
- 課題解決が必要
- 全体のチェック数が11~20個以上
- 各文字どれかのチェックが3~4個
- 課題解決の余地あり
- 全体のチェック数が1~10個以上
- 各文字どれかのチェックが2個
- ほぼ良好に管理されている
- 全体のチェック数が5個以下
- 各文字どれかのチェックが1個
- 問題なく管理されている
- 全体のチェック数が0個
チェックした数が多い課題から現状を把握し、解決に向けた行動をおこしましょう。
課題ごとの現状の問題点と対策
各課題について一般的に問題のある現状と問題点、対策案をあげました。あなたの職場と照らし合わせて解決への道筋を探りましょう。
a.やらされ感が強い
現状
在庫管理を義務としてやっているため自分ごととして捉えられていないので管理が進まない状態です。
「やれといわれるから在庫管理に取り組んでいる」気持ちが強く、課題を解決しようとする意欲がありません。このままでは在庫管理は夢に終わるでしょう。
問題点
- 在庫管理を単発・思いつきで実施
- 目的は活動すること
- 実際はできるわけがないと、あきらめている
- 在庫管理に行き詰まりを感じている
- 本当は気乗りがしない
対策案
在庫管理の道筋を考えスケジュールをたてて管理を実行しましょう。また「在庫管理はできることである」という意識をつけることが大切です。メンバーに「ここならできそう」という場所をあげてもらい、1ヶ月までは短期間にフィードバックをおこなうなどして習慣化します。
- スケジュールを立てる
- 重点実施箇所をつくる
- まずは、ここはできるというところで実績をだす
- 最低でも1ヶ月は毎週確認し管理状態を維持し習慣化する
b.置き方・配置が悪い
現状
在庫管理をしようにも、なにがどこにあるのかすら分からなくなっているのではありませんか?在庫は”とりあえず”で置かれて、そのままになっています。物の置き場は分かる人には分かり、いちいち誰かに聞かないと見つからない状態です。
この状況に置き場がないことが拍車をかけることもあります。在庫は乱雑に重ねあげられ、倉庫に行くとため息が出ますが「また明日」で放置されています。
この課題は、完璧主義な人が難しいルールを強いている場合にも起こりがちです。
問題点
- 在庫が把握されていない
- 物の置き場が決まっておらず、在庫探しに時間がかかっている
- 在庫があるのに購入してしまうことがある
- 人件費と物品費の無駄が多い
- 難しいルールをつくりすぎている
対策案
まずは、なにがどこにあるのかを把握しましょう。用途別か名称別に分類して、大まかでいいので場所ごとに分類できるように置きます。場所がないのなら棚などを導入し、空間を使って在庫の置き場所を確保することも考慮しましょう。
ルールが現状にあっていないのであれば話し合いが必要です。メンバーみんなが、ちょっと頑張ればできそうなルールに変更しましょう。
- 在庫を大まかでいいので分類して置いてみる
- ルールを決めたら表示して周知する
- 同じものは同じところに置く
- 棚を使用して在庫の置き場所を確保する
- 難しい方法で管理しようとしていないか確認する
- 方法を見直す
c.関係づくりが不十分
現状
在庫管理は他の人がやるものと思っている人が多い状態です。管理は担当者に丸投げ。これでは、モチベーションが下がってしまいます。
この課題は、逆に担当者が在庫管理の仕事を抱え込んでいて他の人が手を出せない場合にもおこりがちです。
在庫は皆で使うものです。共有されるべき情報なのに見せたくない様子をされると気分が悪いものです。ムードが悪いと全体の能率もさがります。よくわからないけど買っておこうと無駄なものを買う悪循環にもつながります。
問題点
- 在庫管理は担当者だけがするものだと思っていて協力的でない
- 担当者が、他の人に在庫管理を任せられず抱え込んでいる
- 在庫管理のマンパワーが不足している
- アイデアの視点が単調になりがち
- 複数の人が同じものを買うなど風通しが悪くムードが悪い
対策
在庫管理は、ひとりでできるものでありません。できるだけ多くの視点を使って活動できるように工夫しましょう。在庫管理の担当になった人は、メンバーが協力して活動できるように、苦労しているところのアイディアをつのるなどして、多くが関われるような管理方法を工夫しましょう。風通しのよい雰囲気づくりが大切です。
- 場所ごとに責任者を決めて興味を持ってもらう
- 問題点を共有し、話し合う機会を設ける
- 在庫管理がうまくいっているところに感謝の声かけをする
- 掲示板などで在庫管理の進捗を知らせる
d.教育不足
現状
在庫管理はなにかがわかっていない人が多く活動が停滞している状態です。余剰在庫がたくさんあるのに、それがあたりまえだと思っている人が多く、在庫管理は何のためにあるのかが周知されていません。こんななか在庫管理をしようと思っても、気持ちがなえてしまいそうです。
また、 出したものをもとに戻す習慣がない人がいれば、在庫管理は少しずつ壊れていきます。
問題点
- 今までのやり方でいいと思っている
- とりあえず目の前の作業が大切、やりっぱなしが当たり前
- 在庫管理ができている状態が想像できない
- 目標がわからない
- 出したものが戻せない
対策
まずは、在庫管理の必要性を知らせましょう。在庫管理ができている他社の事例や担当者の話を知る時間を設けたりするのも効果的です。組織内に在庫管理の目標の姿がなければ管理活動はうまく進みません。
在庫管理で最も問題となっている場所は、使いにくいと不満を持っている場所であることも多い場所です。管理して使いやすくすることで、在庫管理の良さを身をもって理解してもらうのもいいでしょう。
出したものをもとに戻すことを習慣化するのは案外難しい課題です。コツコツとあきらめずに何度も働きかけをする必要があります。なぜ戻せないのか、戻せないとどうなるのかについてケーススタディをしたり、できない気持ちを自覚してもらうために無記名アンケートをして効果を出しているところもあります。
- 他社の事例を紹介する機会を設ける
- なにがしたいのかを説明する
- 活動の理由と目標を提示する
- 在庫管理不足で作業が滞留しているところを改善し、良さを実感してもらう
- 出したものは元に戻す習慣は工夫して注意をひいておこなう
※参考:在庫管理が生む良さとは
- 利益が増える
- 在庫が”見える化”され余計なストレスがなくなる
- 誰でも管理できる
- トラブルにかかる時間が減る
- 生産体制の変更にも対応しやすい
- 一度管理が始まれば、大きな活動をしなくて済む
- ”できる組織”であるという自信がつく
在庫管理が生む良さは利益だけでなく、管理のできる組織であるという自信にあります。組織の自信が生産性の向上や不良率の向上につながります。
まとめ
製造業が抱える在庫管理の課題について 在庫管理の課題診断 という手法を使用して課題を見える化しました。また、見える化した課題を、a.やらされ感が強い b.置き方・配置が悪い c.関係づくりが不十分 d.教育不足と分類。それぞれに現状と問題点、解決案を具体的な行動につなげられるようにしました。
製造品目、また事業所の場所やそれぞれの事情によって在庫管理の課題は変化します。担当者、経営者は頭を悩ませているかもしれません。しかし課題を見える化し優先順位を知ることで、やるべきことがみえてきます。
この記事の解決策を、あなたの職場の在庫管理の課題突破のきっかけにしてください。より利益の出る事業活動のために在庫管理を味方につけましょう。