原価管理

棚卸減耗損ってなに?計算方法や決算仕訳など正確な棚卸に役立つノウハウをわかりやすく解説

製造業では、正確な棚卸を行うことで、決算時の利益を正確に算出することができ、企業の売上アップや生産性の向上を、生産管理の現場からも実現することができるようになります。

今回は、棚卸減耗損ってなに?計算方法や決算仕訳など正確な棚卸に役立つノウハウをわかりやすく解説します。

棚卸減耗損とは?

商品の在庫数量は、帳簿棚卸数量と実地棚卸数量の2種類あります。

期中においては、商品有高帳にもとづいた帳簿棚卸により算定された在庫数量で在庫管理し、定期的に実地棚卸を行い、実際に帳簿棚卸数量と実際に調べた在庫数量が一致しているか照合します。

本来であれば一致しますが、商品の紛失や盗難などにより帳簿棚卸数量より実地棚卸数量の方が少ない(帳簿棚卸数量>実地棚卸数量)ことがあります。この差分を「棚卸減耗」といいます。

棚卸減耗が多く発生すると、

  • 在庫の数が足りなくなり、製造に影響する
  • 在庫不足を補うため、さらに費用がかかる
  • 売上原価が正しく計算できず、売上の総利益がわからなくなってしまう

など、キャッシュフローの悪化にもつながり、企業の経営に影響を及ぼします。

「棚卸減耗損の計算式」

棚卸減耗損 =(帳簿棚卸数量 ー 実地棚卸数量)× 1個あたりの原価

例えば、期末において、在庫商品の実地棚卸を行うと、仕入原価200円の商品の在庫数は950個であった。
しかし、帳簿上に記載されている在庫数は1000個である。
この場合の棚卸減耗損は、

(1000-950)×200=10,000円

となります。

この棚卸減耗の数量に、単価を乗じた金額を「棚卸減耗損」または「棚卸減耗費」の勘定科目を用いて当期の費用に計上します。

「棚卸減耗損仕訳」

棚卸減耗による損失分は、決算整理(期末商品の評価)において、少なくなった金額を棚卸減耗損(費用)として処理し、繰越商品(資産)を減らします。

売上原価に含めない場合

(借方)棚卸減耗損  /(貸方)繰越商品

売上原価に含める場合

売上原価に含める場合には、棚卸減耗損を仕入勘定に振り替えます。

(借方)棚卸減耗損  /(貸方)繰越商品
(借方)仕入     /(貸方)棚卸減耗損


商品評価損とは?

保有している商品の価値が、期末に下がり、仕入れた時の価値(原価)より現在の価値(時価)が減少する(原価>時価)ことがあります。この差分を「商品評価損」といいます。

棚卸減耗損が数量の減少によって発生することに対し、商品評価損は価値が下がることによって発生します。

「商品評価損の計算式」

商品評価損 =(1個あたりの原価ー時価)×実地棚卸数量


例えば、
期末において、在庫商品の実地棚卸を行うと、仕入原価200円の商品の在庫数は950個であった。
しかし、商品の価値が下がり、現在の時価は100円です。この場合の商品評価損は、

(200-100)×950=95,000円

となります。
この価値の下落金額に、在庫数を乗じた金額を「商品評価損」の勘定科目を用いて当期の費用に計上します。

「商品評価損仕訳」

商品評価下落による損失分は、決算整理(期末商品の評価)において、下落金額を商品評価損(費用)として処理し、繰越商品(資産)を減らします。

売上原価に含めない場合

(借方)棚卸減耗損  /(貸方)繰越商品


売上原価に含める場合

売上原価に含める場合には、商品評価損を仕入勘定に振り替えます。

(借方)商品評価損  /(貸方)繰越商品
(借方)仕入     /(貸方)商品評価損


棚卸減耗損と商品評価損の決算整理仕訳

実際に、次の例で決算仕訳をしてみます。

期首商品棚卸高:数量500個  原価@200円
期末帳簿棚卸高:数量1,000個 原価@200円
期末実地棚卸高:数量950個    時価@100円

棚卸減耗損および商品評価損はともに売上原価に含めることとする。

棚卸減耗損や商品評価損の決算整理仕訳を行うには、まず、売上原価の算定を仕訳します。

売上原価の計算式

売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高

  1. 期首商品棚卸高

前期から今期に繰り越した在庫の合計価格
(期首商品数量×原価=期首商品棚卸高)

500×200=100,000円

  1. 当期商品仕入高

今期の仕入れた在庫の合計金額
(期末帳簿棚卸数量×原価=当期商品仕入高)

1,000×200=200,000円

  1. 期末商品棚卸高

来期へ繰り越す在庫の合計価格
(期末繰越商品数量×原価=期末繰越商品価格)

950×200=190,000円
100,000+200,000‐190,000=110,000円

これが今期売上原価となります。

そして次に、棚卸減耗損と商品評価損は、決算期末の在庫(期末繰越商品)が、減耗したり価値が下落することですので、帳簿上の期末在庫から棚卸減耗分や商品評価損分を減らす仕訳をします。

決算仕訳

【繰 越 商 品 200,000  / 仕  入 200,000】
→期末商品棚卸高1,000個×200円

【棚卸減耗損 10,000  / 繰 越 商 品 10,000】
【仕   入 10,000  / 棚卸消耗損 10,000】
→棚卸減耗損(1,000個-950個)×200円=10,000円

【商品評価損 95,000  / 繰 越 商 品 95,000】
【仕   入 95,000  / 棚卸消耗損 95,000】
→棚卸減耗損(200円-100円)×950個=95,000円

 

損益計算書表示区分」

棚卸減耗損や商品評価損は、原価性の有無により損益計算書における表示区分が異なります。

原価性の有する
(原価の範囲内で、通常発生する程度の棚卸減耗または評価損)

損益計算書の「売上原価の内訳科目」または「販売費及び一般管理費」に記載します。

原価性を有しない
(原価の範囲外の異常発生した棚卸減耗または評価損)

損益計算書の「営業外費用」または「特別損失」に記載します。

棚卸減耗損・商品評価損の発生原因と対策

棚卸減耗損や商品評価損が発生する主な原因は、「人為的ミス」「品質低下」「破損」「盗難」「紛失」です。

人為的ミス

入出庫や棚卸の時に、数量の数え間違い、記載漏れ、記入間違い、伝票の誤入力、伝達ミスなどの人為的なミスにより、適正な在庫管理ができず、棚卸減耗損が発生することが多くあります。

このような人為的ミスを防ぐには、

  • コミュニケーションをしっかり取る
  • 誰でもできるようにマニュアルを作成する
  • 帳簿の在庫と実在庫のずれが大きくなる前に、定期的に棚卸を行う
  • 在庫管理担当者間でダブルチェックを行う
  • 在庫の見える化を行い、在庫の把握を明確にする

など、ミスが起きにくい環境を整えることが重要です。

品質低下

適正な在庫量の把握や需要の予測ができていないことで過剰在庫が起きます。過剰在庫は、経年劣化により在庫として使用できなくなってしまい現場にて勝手に処分されたり、在庫数量としてカウントされないなど、品質の低下により、棚卸減耗損や商品評価損が発生することがあります。

このような品質低下を防ぐには、

  • 適正な在庫量を、過去のデータなどから予測する
  • 在庫の見える化を行い、在庫数の把握をする
  • 過去のデータなどから需要の予測を正確に行う

など、適正な仕入管理を行うことが重要です。

破損・紛失

運搬中や製造中に誤って、商品を破損させてしまうことがあります。
また、棚卸の時に、どこに置いてあるかわからなくなり在庫商品が紛失してしまうことがあります。その際に適切に改善されていないと、棚卸減耗が多く発生することがあります。

このような破損を防ぐには、

  • 保管方法や経路に問題がないか、在庫商品を運ぶ人手が不足していないか見直す
  • 3Sや5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を徹底する

など、現場の改善を行うことが重要です。

盗難

倉庫が無人であったり、外部の業者が自由に出入りできる状態で、セキュリティ対策もしっかりされていなければ、在庫商品の盗難が発生してしまうことがあります。

このような盗難を防ぐには、

  • 監視カメラを設置する
  • 受付に警備員や守衛を配置し、入退室管理を徹底する

など、現場の改善を行うことが重要です。

製造業の棚卸減耗を防ぐ在庫管理システム

製造業は、仕入れから加工、製造まで複数の工程があり、膨大な原材料や部品数になり、棚卸資産の管理が複雑で、人為的ミスによる棚卸減耗が多く発生しやすい状況にあります。

在庫管理システムを導入することで、

  • 属人的な業務の削減
  • 発注から仕入までの管理を誰でもスムーズにおこなえる
  • 在庫数や必要な商品数の一元管理
  • 過去のデータから需要予測が正確におこなえる
  • 人為的ミスの減少・業務の効率化など

適正な在庫管理ができるため、棚卸減耗や商品評価を下げる原因の改善に有効です。

まとめ

今回は「棚卸減耗損ってなに?計算方法や決算仕訳など正確な棚卸に役立つノウハウをわかりやすく解説」について紹介しました。

棚卸減耗損や商品評価損を防ぐことは、売上原価を正確に算出し、生産性を高めることにもつながるため、健全な経営を行うためにとても重要です。
棚卸を適正に行わなければ、棚卸減耗による在庫の減少を把握できないため過剰在庫に陥ってしまったり、棚卸減耗損が計上されず、売上総利益もわからなくなってしまいます。

自社の利益や在庫を知り、今後の販売戦略を立てる上で重要な作業となりますので、一元管理できる在庫管理システムを導入することで、人為的ミスの減少・業務の効率化を図ることができます。参考にしてみてください。

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