製造業がメーカーとして生産活動を行っていく上で、ものづくりに関わるコスト、すなわち原価の管理は避けることができません。しかし、原価管理を行うにはさまざまなデータや計算を行う必要があるため、手間がかかります。
「もっと自社の生産効率を高めて利潤を上げたい」「需給バランスの崩れによる予測困難な損失リスクを回避したい」と考えている組織管理者の方もいる事でしょう。今回は、マネジメント手法としての「原価管理」について解説し、原価管理を効率的に行うシステムについてご紹介します。
原価管理とは?
原価計算には、大きく分けて販売価格決定・コスト把握・予算の管理と編成・経営計画の策定・財務諸表や決算書の作成の5つの目的があると定義されています。簡単に言えば、利益管理の取り組みとして製品の製造に必要となる原価を管理することです。コスト・マネジメントとも言い、特に製造業で用いられてきましたが、近年では経営環境の変化から幅広い業種で活用されるようになりました。
原価管理には、考え方がいくつかあります。そのうちの1つが、VE(Value Engineering)と呼ばれる、製品機能とコストの関係から「価値」をコントロールしていくもので、価値=機能/価格で表されます。これは、お客様にとってより「価値」が高くなるような製品・サービスを提供しようという考え方です。
また、製品やサービスの原価の8割は、その製品の仕様を決めたときに決まるといわれています。そのため、製品が世の中に誕生する前の開発段階から、「どれだけのコストを費やして、どれだけの利益を得るか」を考える「原価企画」という考え方があります。
【原価管理で出来る事】
原価を「固定費」と「変動費」で分類すると、3つのことが出来ます。損益分岐点の分析・各製品の採算性・利益目標や予算の計画が可能になります。このように、自社にとって最適な生産量や利益の出し方がわかるようになります。
【予算管理との違い】
予算管理とは、予算編成や、予算と実績の分析を行うことです。それに対して、原価管理は主に製造原価の目標と実績のチェックになるので、予算管理のほうが広義の管理になります。予算管理を行う上で正確な原価の算出も必要になってくるので、原価管理はさまざまな面で重要な業務となります。
原価とは?
原価とは、「製品やサービスに必要なコストを集計したもの」のことです。例えば、仕入れ原価や製造原価などが挙げられます。
【仕入れ原価】
スーパーやコンビニなど、小売店が完成した商品を仕入れて販売するときの原価です。商品の仕入れ価格に小売店の人件費などの経費がプラスされたものとなっています。マージンとも呼ばれます。
【製造原価】
製造業者が原材料を仕入れて加工したときの原価で、材料費、労務費、経費を全て足したものです。この中で経費とは、材料費や労務費に入らない原価をまとめたもので、工場や倉庫のレンタル料、設備類の減価償却費、光熱費などが含まれています。
また、材料費、労務費、経費にはそれぞれ直接費と間接費があります。直接費とは、「製品を作るために直接的に関わっている費用」のことです。間接費とは、「製品を作るために間接的に関わっている費用」のことです。この2つの原価に販売費や一般管理費を足したものが総原価です。
原価計算と原価管理の違いとは?
原価計算は、製品やサービス1単位にかかる原価を、目的に応じて正確に計算して把握するという手続きのことです。原価管理は、準となる原価を設定して基準から外れないように物事を統制し、時には基準よりも原価を下げる取り組みをすることです。
原価計算をしているだけでは、原価管理をしていることになりません。原価計算はあくまで原価管理を徹底するための手段です。
原価管理の目的とは?
原価管理の目的は「製品やサービスの原価を正確に把握したり、製品やサービスが持つ価値と利益に応じた価格設定をしたりすること」です。大まかに分けると、その役割は利益管理・リスク管理の2つがあります。
【利益管理】
原価管理を行う最大の目的は、利益を確保するためです。原価は原材料だけではなく、商品の生産やサービスの提供に関わる費用全般を指します。この原価が商品の価格に対して高ければ、利益の割合は小さくなります。そのため、利益を確保できる価格を設定しなければなりません。
そこで必要になるのが原価管理です。原価管理によって、商品やサービスを提供する際にどのくらいの費用がかかったのかを把握できます。それをもとに価格を設定し、必要に応じて原価低減活動を行えば、利益を上げることが可能でしょう。
【リスク管理】
リスク管理も重要な目的です。販売価格が一定だったとしても、そのときの条件などによって原価は変わります。もし原価管理を行っていなければ、販売価格と仕入れ価格のバランスが取れず損失が生まれるでしょう。原価の変動を予測し、利益の低下や損失を最小限に抑えるために、原価管理が必要です。
正確な原価管理を行うメリットとは?
原価管理を行うメリットを紹介します。原価管理は資材調達・在庫管理・会計処理などさまざまな業務領域と関係しているので、それぞれの領域の無駄なコストを一元的に把握・削減できる可能性が広がります。
【無駄なコストを把握できる】
原価管理を行えば原価を構成している内容を把握できるので、無駄なコストを見つけやすくなります。また、現在では無駄ではなくても、将来的に無駄の可能性があるコストを見つけることも出来るでしょう。販売価格は一定でも、無駄なコストを削減して原価を抑えれば利益を増やせます。さらに、原価を削減しつつ開発を進めることも可能です。
例えば、開発現場に、開発原価を抑えて欲しいと言う要望を出しても、反発される可能性があるでしょう。しかし原価管理を行っていれば、現場で削減して欲しいコストを具体的に説明できるので実現しやすくなります。
【損益分岐点を把握できる】
原価管理を行っていると損益分岐点を把握できます。損益分岐点とは、利益と損失がわかれるボーダーラインのことです。この損益分岐点を把握していれば、原価に対してどれくらい利益が出るか分かるため、経営判断も行いやすくなります。
実際に市場に出した商品を撤退させる判断を行うのは難しいですが、原価管理をして損益分岐点を把握しておけば引き際も見極められるでしょう。
【経営における検討材料として利用できる】
原価管理を行うことで、製品やサービスの生産数や売上、想定利益などの情報を把握することができます。これらの情報は、設備投資や新製品開発などの経営ビジョンの検討に生かすことができます。企業がどの製品やサービスに注力するべきか選択する際に、生産数や想定利益の情報は重要となります。
企業の目標は利益の最大化にあるわけですから、企業は最も効率的に利益を挙げることができる製品やサービスに優先的に取り組みたいと考えています。しかし、どの製品やサービスが有望であるか判断することはとても難しく、市場環境など外的要因にも提供されてしまいます。
その中でも、原価管理に基づく想定利益や想定販売量、想定生産量などのデータは、製品やサービスの選定にあって定量的な指標として利用することができる有望な根拠となり得ます。
原価管理の手順とは?
ここでは、原価管理として行うべき取り組み手順について紹介します。
【標準原価の定義】
まずは、標準原価として各製品のあるべき製造原価を定義します。標準原価を求めるためには、標準原価計算と呼ばれる原価計算の手法を用います。この際、材料の調達コストや人件費、設備の導入・維持費などを現実的な値で想定し、実際に達成できるレベルの原価とするべきでしょう。
また、この段階で標準原価と想定売上額との比較検討を行い、適切に利益が得られるかを確認します。あまりにも原価が高くなるようであれば、製品の製造方法や利用材料などを見直します。
【実際原価の計算と差分の分析】
製品の製造を開始したら、一定の期間ごとに実際に発生した原価(実際原価)と標準原価を比較し、差分について分析します。分析によって、例えば材料費の増加や生産効率の低下、商品ロス率の向上など、様々な課題が明らかとなります。
実際原価と標準原価を比較する際には、材料費・労務費・経費等の費目別に比較することが大切です。より詳細に比較していくことで、差異の原因が明らかとなります。原価のうちどの要素に差異があるかが分かったら、その差異の発生原因について分析します。結果として、例えば電気代や材料費の高騰といった外的要因なのか、製品ロスの多発や製造設備の故障などの内的要因なのかが明らかとなり、今後の対策につなげることができます。
【分析結果に基づく改善】
分析結果により課題が明らかとなったら、その課題を解決できるように改善を行います。例えば、商品ロス率が上がっていることが明らかとなったら、さらになぜロス率が向上しているかを分析します。結果として、材料の品質悪化が明らかとなったり、熟練工の退職による作業精度の低下が分かったりするでしょう。
さらに踏み込むと、改善により標準原価を下げられるように無駄や非効率を削減することも重要です。標準原価はあくまで目標値ですので、新技術を導入することで製造効率を向上させたり、生産プロセスを見直すことで改善したりすることができます。原価管理の目標の一つは、標準原価を低下させて利益を向上させることにあるといってもよいでしょう。
システムを用いた原価管理とは?
原価管理システムとは、原価管理の要素である標準原価と実際原価の差分分析や損益分岐点分析などの機能を持ったシステムのことです。単体のシステムとして提供されることもありますが、生産管理システムやERP(企業の経営資源を最適化し、経営を効率化するために必要なシステム)の一部機能として提供されているケースも多いです。
【原価管理システムで可能な事】
一般的な原価計算システムであれば、主に以下の5つの機能を備えています。
1.原価計算の実施:標準原価計算や実際原価計算など、一般的な原価計算を実施することができる。
2.配賦:部門ごと、製品ごとに配賦基準や配賦率を設定し、配賦を行うことができる。
3.損益計算:製品別に原価と販売価格、想定販売量などを分析し、製品の有望性を判断できる。
4.標準原価と実際原価の差異分析:標準原価と実際原価の差分をグラフ等で可視化し、改善に役立てる事
ができる。
5.原価シミュレーション:過去の実績などをベースに、材料費や設備費などの変動可能性を分析し、シナ
リオごとに収益性を確認できる。
原価管理システムを導入するメリットとは?
原価管理システムを導入すると得られるメリットは以下の5つです。
【原価計算や原価管理業務が効率化する】
原価計算は計算方法が複数あるため、エクセルを利用しても煩雑になりやすい業務です。原価管理システムには原価計算機能があるので、計算方法が複数あるとしても対応ができます。また、システム化することで正しい原価を把握できるようになるので、標準原価や実際原価の計算が容易になります。
そのため、今まで負担になっていた業務負担が減り、適切な利益を生み出せるようになるので、その分のリソースをほかに回すことができるようになり全体的な業務の効率化にも繋がります。
【リアルタイムな情報を経営へと生かすことができる】
原価管理システムを導入することで、原価差異分析・損益分岐点といった企業経営上非常に重要な情報を、迅速に入手することが可能です。今日ではグローバル化が進み、海外との結びつきが一層強まりました。海外拠点での生産や海外居住者へのアウトソーシングを伴う場合には、為替の変動など原価に影響を与える要素が多くなります。
従って、リアルタイムかつ正確な原価差異分析を行うことができるかどうかは、自社の将来を大きく左右するといっても過言ではありません。このような経営環境においては、原価管理システムの導入により、重要情報の入手速度を向上させることが必要となります。
【労務コストを削減できる】
原価管理システムを導入することで、従業員の労務コスト削減することができます。最新の原価管理システムは多くの機能が自動化されており、担当者は必要最小限の入力作業のみで原価データをシステムへと登録することができます。
また、製品番号や仕入先などで任意にカテゴライズした帳票のみを表示、あるいは出力することも容易にできるようになっています。したがって必要な時に必要な情報を、速やかに獲得することができます。
【複数の選択肢をシミュレーションできる】
システムの中には、シミュレーション機能を備えている製品もあります。シミュレーション機能とは、調達先の急な変更や原料費の高騰などに備えて、原価の変動が自社に与える影響をシミュレーションできる機能のことを言います。
景気や為替の変動の激しい今日においては、自社を守るため常に万一の事態への備えをしておく必要があります。原価管理システムを導入することで、不測の事態への事前の訓練と対応することが可能なのです。
原価管理をパッケージ型システムで行うメリットとは?
上記で原価管理の需要性と利便性について解説しました。原価管理を導入ならば、同時に原価管理システムの導入も必要となります。近年、原価管理をするにあたり、様々な企業でシステムの導入が進んでいます。中でも、クラウド型と呼ばれるシステムが増えてきています。
クラウド型システムは、一つのシステムを企業の社員共同で使うことができます。カスタマイズも更なるシステム開発も不要ですぐ使うことが可能です。
パッケージ型のシステムにはどのようなメリットがあるのかを紹介していきます。
【安価に導入が可能】
独自開発システムに比べて、安価に導入することができます。ソフトウェアに限らず、量産品や既製品は、大量に作る分、コストを抑えることができます。
しかし、オーダーメイドの製品はその製品のためだけに生産されるので、コストも割高になります。パッケージシステムは、一度システムを構築してしまえば、その後、特に作る必要がないので、コストは安く済みます。
【導入までの準備期間が短い】
既にできているシステムなので、基本的には導入に推奨される環境が整っていればすぐにでも導入することができます。
独自開発のシステムだと打ち合わせに膨大な時間をかけて行うことになります。またその後、システムの構築を開始しますので、導入にも時間がかかります。
【品質が保証されている】
パッケージシステムは、基本的には導入実績も多数あります。実績が多数あるということは、パッケージシステム自体の品質が良いということになります。
独自開発されているシステムは基本的に効果が得られる実績がありません。基本的にオーダーメイドのため、一点もののシステムになります。そのため、独自開発されたシステムは品質が保証されていません。導入して初めて効果があるかどうかの実証ができるということになります。
パッケージシステムは、品質が保証されているというメリットもあります。
クラウド型の原価管理システムの導入を検討してみましょう
適切な原価管理を行うことは企業の利益を生み出すことに繋がりますが、全てを手作業で行うには限界があります。前述の通り経営環境の変動が激しくなった現代においては、正確な原価管理を効率よく、かつ可及的速やかに行うことができるかどうかは、自社の経営に大きな影響を及ぼします。
また、こうした時代背景から、業種や企業規模に合わせたさまざまな原価管理システムが登場しています。変化の激しい時代における有効な生き残り戦略として、原価管理システムの導入は不可欠な要素となっています。
原価管理システムを検討するときには、今回着目したパッケージ型のように提供形態で選ぶ以外にも、業界に特化した機能や自社の業務にマッチした機能が搭載されているかなど、さまざまな視点で製品を選ぶ必要があります。
クラウド型生産管理・在庫管理システム「鉄人くん」は、わかりやすい画面と手厚いサポートで、システムが初めても企業でも使いやすくわかりやすいのが特徴です。
また、トライアルキャンペーンも実施していますので、原価管理システムの導入を検討してみたいとお考えの方は、こちらからお気軽にお問合せ・ご相談ください。今回紹介した原価管理ソフトはどれも比較的低コストで導入できますので、有料の原価管理ソフトの導入の際に参考にしてみてください。